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9夏季編  第4章財務健全化計画〈潤沢な血液循環システム〉

Published by office, 2023-04-16 23:19:59

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第4章 財務健全化計画 ―潤沢な資金循環システム― 財務の充実が、経営の樹を 柔軟且つ強くする 185

1.経理、財務、会計の違いを把握 会社が経営難に陥る最大の原因は、財務の軽視です。 技術系、営業系の経営者程、財務を疎かにし、折角“良いもの”を持っていなが ら、財務で躓いてしまいます。 急成長会社、ベンチャー型企業に多く見られるように、経営危機(クライシス) に陥る原因のほとんどは、財務の重要性を無視していると言っても過言ではありま せん。 財務の裏付け無くして安定した経営は出来ません。 経理とは 過去の数字の 結果なり 財務は未来 創るものなり 財務は様々な法律知識や資金調達方法などを十分に理解した上で、状況により柔 軟な対応をしていくべきものであり、極めて奥の深いものです。 経営者になった以上、経理の知識はともかくとしても、財務の基本はマスターし ておくべきものです。 先ずは経理、財務、会計の違いを確認しましょう。 Point 経理は必要、財務は重要、会計は一心同体にさせるもの 経理、財務、会計は、同じ様に見えますが、それぞれの性格は違います。 〈経理〉とは、お金の動きを記録することであり、正確性が要求されます。 しかし、あくまで「過去の記録として必要とされるもの」であり決算書に集約 されてゆきます。 〈財務〉とは、「不測の事態を乗り越えかつ、これからの方向性や計画などに役 立てるためのもの」であり、安全に経営をするためには極めて重要なものです。 実行予算書、収支計画表、財務体質改善表などは、決算書には必要とされないも のですが、財務健全化には重要なものです。そして、経理を過去とすれば、財務 は未来になります。 〈会計〉とは、「経理内容を関係者に報告すること」です。上場企業は公開が義 務付けられていますが、一般企業は任意です。しかし社員や銀行などへ公開する ことにより、一心同体となり、強固な体制が築かれてゆきます。 特に金融機関への公開は、絶対的に必要なことです。銀行から見て、経理内容 を隠したり、ごまかしたりする会社への融資はできません。逆に常日頃から経理 内容を報告する会社へは、とことん協力してくれるものです。 ❖次こ頁れにら経の理違、い財を務理、解会し計たの上うでち、、財特務に計重画要をな考経え理まとし財ょ務うの。違いを説明します。 186

2.経理の目的と仕事 経理の仕事は、経営の記録を数字で表し経営者に提供することです。日々の「取 引」を「簿記」という記録方法により記録し、1年毎に決算という形で集計しま す。 その記録が「財務計画の基礎となり、VOC やPDS の経営サイクルが廻ってゆ く」ことになります。既にわかりきったことと思いますが、改めて経理の仕事を整 理してみましょう。 (1)日常的な仕事 〈日次業務〉 ① 現金と預金を管理(毎日)と資金繰り 小口現金出納帳、現金預金管理 ・日々の小口現金の支払いと銀行取引業務、資金繰表など ② 売上の発生と回収を管理(適宜) 売上集計表及び回収状況表 ・請求書の発行と売掛金の集計など ③ 売上原価の支払い管理(適宜) 売上原価集計表 ・仕入れや買掛金及び、労務費や外注費の支払いなど ④ 一般管理費の集計と支払い管理(適宜) 販売管理費集計表 ・変動費や固定費の集計と支払いなど (2)毎月の仕事 〈月次業務〉 ① 給与計算と源泉徴収、社会保険等の計算と支払い 各計算書類 ② 月次貸借対照表&損益計算書の作成(試算表) 収支結果表 ③ 借入金返済などの管理 借入金一覧表 ④ 1ヵ月間の収益性分析 月間収支表 (3)毎年の仕事 〈年次業務〉 ① 決算書の作成 損益計算書、貸借対照表 他 ② 会社の税金や消費税(分割)の支払い 各計算書類 ③ 年末調整、社会保険料、労働保険料の計算と報告 各計算書類 ④ 1年間の収益性分析 このように経理の仕事は、日常的な仕事から毎月の仕事、そして1年に1回の仕 事、そして突発的な出費などに対応する仕事など様々です。極力パターン化し、ム ラ、ムダ、ムリのない経理業務を確立してゆきたいものです。 ❖それでは、次頁で財務について考えてみましょう。 187

3.財務の目的と仕事 財務計画とは、経理業務により計算された各データを基礎にして、将来の経営判 断に役立てるために行うものです。 つまり、「経理は過去の集計」「財務は未来の予測と計画」になります。 経理と同じように財務の仕事を整理してみましょう。 (1) 日常的な仕事 1. 経営の健全化を図る 経営は常にリスクを伴います。特に資金面でのトラブルが多く発生します。 どんな時にも資金が不足しないよう、資金繰りを考えなくてはなりません。 銀行との円満な関係を築くことも大きな仕事です。 2. 予算管理 あらかじめ決められた収支目標達成に向け、資金管理をすることです。 その他、資金の過不足がないよう、常にチェックすることが求められます。 (2) 毎年の仕事 1. 決算書の事前準備 決算を控えて、経常利益の調整などにより、創税を行ないます。創税とは、納税 に対し、計画的に決算をすることです。 2. 決算書の黒字計上 決算書の結果は、将来の経営に大きな影響を与えます。経理上の決算は正確に計 算することですが、それを経営面にプラスに反映するようアレンジすることが財務 の役割です。 3. 翌年度の財務計画の立案 決算毎に、翌年の財務計画を立案、経営計画書に役立てます。 以上、財務の仕事を並べましたが、順調に経営している時は、それほど必要とさ れるものではありません。 しかし、いざ不測の事態に陥った時、最も重要になるものです。 日頃から疎かにしないで、充分な配慮を欠かさないようにしましょう。 そして、財務は経営者の最も重要な仕事です。 経理社員や税理士に計算等を任せることは構いませんが、最終的な方針、チェッ クは経営者が受け持たなければなりません。 ☞経理は正確に行うものとの認識は必要ですが、正確に行うことと円滑な会社経営 とは違うということを認識しなくてはなりません。倒産企業の半分近くは黒字決算 であるという信じられないデータがあるほどです。 188

4.営業利益の確保 売上利益内で販売管理費を収めることができれば、営業利益は確保されること になります。この営業利益の確保が財務の重要な仕事であることを理解して下さ い。 販売管理費は、大きく人件費、変動費、固定費の 3 項目に分けられます。 〈販売管理費の削減〉 ・人件費 人件費率(労働分配率)40%を守る ・変動費 ムラ、ムダ、ムリの排除により削減させる ・固定費 固定的な出費を削減する この 3 つの費用削減により、売上利益内に収めるようにします。会社がどんな経 営危機に陥ろうとも、営業利益が確保されていれば存続可能です。 〈収支実績表の作成〉 毎月の収支を集計したもので、収益性を見ます。営業利益を確保するためになく てはならないものです。 当月の収支結果を翌月 10 日位までに収支実績表として作成します。これは必ずし も決算書と同金額である必要はなく、実際の収支結果として、PDS 会議に活用する ために作成するものです。 令和 3 年度 下半期収支実績表 ※S 会社の PDS 会議用収支実績表。月末締め、翌第 2 火曜日までに作成している。 189

5.資金繰りと借入計画 ☞資金繰りは資金ショートを防ぐため 会社の資金が常に円滑に回るよう、前もって計画を立てることを資金繰りと言い ます。 当月分を前月に作ることは当然として、2〜3 ヵ月先までの資金繰り表を作ってお きたいものです。他と違い、資金繰り表だけは常に書き直すことが大切です。そし て資金繰り上、避けて通れないものが、銀行からの借入です。 ☞借入は是か非か? 一般的には、借入金は無い方が良いと思われがちですが、それは個人としてのロ ーンや借金と同じレベルで考えているために起こる考え方です。 借入を会社を円滑に運営するための要素と考えると見方も変わってきます。 借入金に対するメリットとデメリットの両面から考えてみましょう。 よく無借金経営を称賛する声を聞きますが、果たして無借金経営は褒められるこ とでしょうか? 現実的には、無借金経営のデメリットの方が多いように思います。 〈借入のメリットとデメリット〉 メリット デメリット 運転資金が増え、資金繰りに余裕が出来る お金がいつもあることの安心感が、経営に 甘さを生み経営危機に繋がる 仕入れや投資へ、有効に使える チャンスを生かせない 借入金の金利を支払うことにより、税金の 法人税などの負担が大きくなる 軽減に繋がる 金融機関との良好な関係を作ることが出来る いざという時、応援を頼めない クライシスに陥った時、会社の存続を支えて リスクに備えることが出来ない くれる この他にもあると思いますが、最も大きなメリットは、経営者に日々の精神的余 裕が生まれることにより、的確な経営判断を下せるようになることです。 デメリットは、経営の甘さに繋がることの他は、あらゆる環境変化に対して柔軟 に対応できないことです。 超低金利時代の現在においては、経営者に甘さを生む危険の他は、借入のデメリ ットはほとんど無いように思います。 借入に対するメリットとデメリットを良く理解し、借入金を有効に利用し、会社 経営の円滑化に役立てましょう。 ❖次頁から財務の最大な仕事である決算書についてとことん説明します。 190

決算書の重要性と取り組み方 会社経営においては、決算書の提出が義務付けられています。 決算書は、会社の財務状況を数字で整理したもので、学校の通信簿に当たるもの です。 決算書の結果により、会社の将来が決まってしまうと言っても過言ではない程、 重要なものですが、決算をおざなりにしてしまい、将来への貴重な資料とする認識 があまりにも薄いのが現状です。決算の目的について詳しく考えてみましょう。 〈決算の目的〉 1.1年間の経営活動の記録 1年間のお金の流れと収支結果(損益計算書)及び、決算当日の資金と負債 の状態(貸借対照表)を記録する 2.会社の信用度判断の基礎資料 資金調達時の信用情報として扱われ、その内容により、資金調達の可否が 決定されるため、会社の将来に著しい影響を与える 3.税金の計算資料 法人所得税などの課税根拠となるものであり、その根拠となる税法などは 正確に理解しないといけないものである。 決算の目的を、経営活動の記録とすれば過去の記録を集計するだけのものとなり ます。 しかし、決算書により資金調達に影響したり、税金の発生に繋がるものと考え れば、経営計画を策定する上での重大な経営要素になります。 つまり、「決算書は結果ではなく、未来を創るもの」という考え方になります。 未来を創る考え方に立つと次の考え方が必要になります。 ・会社の信用度を落とすことになる赤字決算は絶対に避けなくてはならない。 つまり計画決算である。 ・税金の計算資料ならば利益は計画的に計上しなくてはならない。つまり、創 税である。 このように、決算書の取り組み方が違ってくるものと思います。 それぞれ次頁より詳述しますので、良く理解して下さい。 ☞この決算処理は、経営者の最も重要な仕事です。 191

1.決算書は 1 年間の活動記録 決算とは、あらかじめ決められた決算月(任意)にその一年間の経営活動を静(貸 借対照表)と動(損益計算書)により、記録するものです。決算書は、主に「貸借 対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュフロー計算書」から構 成されています。 (1)貸借対照表は決算当日の資産と負債のバランスを表わす 1.貸借対照表は、決算日 資産 負債 当日の資産と負債のバランス を表したもので「資産の部」「負 流動資産 〇〇〇 流動負債 〇〇〇 債の部」「純資産の部」の 3 つ で構成され 現金預金 〇〇〇 支払手形 〇〇〇 ています。 受取手形 〇〇〇 買掛金 〇〇〇 左側を資産の部、右側を負債 の部と純資産の部で構成され 売掛金 〇〇〇 短期借入金 〇〇〇 ていて、負債は「他人資本」、 純資産は「自己資本」と呼ばれ 有価証券 〇〇〇 固定負債 〇〇〇 ます。 商品 〇〇〇 長期借入金 〇〇〇 固定資産 〇〇〇 社債 〇〇〇 土地 〇〇〇 純資産 建物 〇〇〇 資本金 〇〇〇 機械 〇〇〇 利益剰余金 〇〇〇 2.左側に記載されている 合計 〇〇〇 合計 〇〇〇 資産の部では、何にお金を使っているのか把握できます。 流動比率=流動資産÷流動負債×100 で安全性を分析します。 3.右側にある負債の部は返済義務があり、純資産の部では返済義務がないお金 です。自己資本とは、資本金などの返済する必要がない安定した会社の資金源です。 自己資本比率=純資産÷総資産×100 で安全性を分析します。 4.左側の数値と右側の数値の合計数は、常に同じとなります。資産より負債が 多い場合はマイナス、少ない場合はプラスとして純資産の欄に表記します。 貸借対照表は、今日までの歴史と体質を見るとともに資産と負債を表わす指標と して様々な困難や環境変化に耐え抜く強固な体質作りに役立ちます。 極力、不用な資産は処分、回収不能な売掛金や必要のない財産の処分などを進め ることが大切です。 最もいけないのは、経営者との公私混同です。社長への貸付金や仮払金などの計 上は絶対に避けなければなりません。金融機関からの借入れが出来なくなるからで す。 192

(2)損益計算書は一年間の収支結果を表わす 損益計算書は、決算期間の損益をまとめたものです。利益は、「売上総利益」「営 業利益」「経常利益」「税引前当期利益」「当期利益(純利益)」の 5 つから成り 立っています。 損益計算書(〇〇〇=金額) ① 売上総利益 P/L 売上高から、販売する商品を仕入れるため にかかった原価や経費を差し引いたものが 売上高 〇〇〇 売上総利益です。健全経営の基本であり、 売上利益率を重視します。 売上原価 〇〇〇 売上総利益 〇〇〇 ① 販売費及び一般管理費 〇〇〇 ②営業利益 営業利益 〇〇〇 ② 売上総利益から、一般管理費を差し引いた 営業外損益 〇〇〇 ③ ものが「営業利益」です。 経常利益 〇〇〇 ④ 人件費や広告費、消耗品費、減価償却費、地 特別損益 〇〇〇 ⑤ 代家賃などです。ホーレンソー、ムラ・ム 税引前当期純利益 〇〇〇 ダ・ムリの三ム運動などにより削減します。 法人税等 〇〇〇 当期純利益 〇〇〇 ③経常利益 営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いて求められるのが「経常利益」 です。経常利益が税金の対象になるため、予め計画することが大切です。(創税) 営業外収益とは、預金の利息など、本業以外での収益を指します。 また、営業外費用とは、借入金の利息など、本業以外での費用などを指します。 ※④税引前当期純利益と⑤当期純利益については説明を省きます。 Point 人件費比率の仕組み 決算結果を黒字計上することは、経営者の責任です。そして、営業利益を黒 字にするために最も重要なのは人件費比率です。 売上利益の40%を人件費にすることで健全経営となり、社員がやりがいを持 つようになります。人件費比率は多過ぎても少な過ぎてもいけない指標です。 この比率を守ることが健全経営の基本です。 そしてその結果の営業利益を賞与など人件費に充てれば、結果として人件費 が増えることになります。この仕組みを社員と共有出来れば給与の問題は無く なります。 193

(3)損益計算書の分析 決算書の損益計算書を分析してみましょう。経営分析は多くの指標がありますが、 特に重要なものをあげました。 1. 売上利益率 = 売上利益÷売上高 売上利益を売上高で割った数値です。業種により様々ですが、業界平均値を見な がら、自社の利益率を決定、厳守しましょう。 「売上を下げながら利益を上げる」最初の一歩です。重視しなければならないの は、売上高ではなく、売上利益率です。これは実行予算書の作成により、守ること が出来ます。 2. 営業利益率 = 営業利益÷売上高 営業利益を売上高で割ったものであり、高ければ高いほど良い数値です。社員一 人一人が、ムラムダムリのない仕事をしていけば、自然と上がっていくものです。 そしてこの利益は、組織・営業・財務の 3 計画が調和することにより、得られ ます。決して営業だけで得られるものではありません。 3. 労働分配率(人件費比率) = 人件費÷売上利益 人件費を付加価値(売上利益)で割ったもので、高くても低くてもいけない数値 です。小企業の場合、40%を目標にしましょう。 35%以下では、社員の不満を招き 40%以上では会社の維持が困難になります。経 営不安に陥る会社のほとんどは、60%を超えています。(労使協調を生むシステム) ❖次頁は人件費比率を重視した損益計算書です。 4. 経常利益 = 営業利益に支払金利などの営業外収支を差し引きしたもの 経常利益は営業利益より支払金利などを引いた金額です。 営業利益が支払い金利を上回らなければ、金利を支払うことが出来ず経営困難に 陥ります。つまり、適正な借入額は経常利益次第とも言えます。 経常利益率には基準はなく、人件費や将来の計画を基に決めるものです。つまり、 営業利益を賞与として社員へ分配するか、設備投資をするか、そのまま法人税を納 め、余った資金を内部留保や株主配当にするか、などです。したがって、経常利益 は、経営方針に沿いコントロールするものです。 本書では、創税の考え方を勧めています。経常利益をあらかじめ決めておき、税 金を創る考え方です。 ☞以上が主な分析ですが、小企業においては、他は常識的な判断で構わないと思い ます。 194

2.決算書は信用判断の基礎資料 取引相手からの信用調査や借入に際しての融資審査は、決算書の良し悪しによっ て決まります。 優秀な決算書とその扱い方を考えてみましょう。 条件 1.黒字決算を続けている 少額でも連続黒字決算を続けましょう。 仮に赤字になっても、赤字になった原因を明確にして、翌年は挽回したいもので す。2 期連続赤字決算は不安視され、3 期連続となると、ほぼ金融機関からは相手に されなくなります。 条件 2.社長が公私混同をしていない 会社のお金を社長に対し、貸付金処理すると、ほぼ間違いなく借入はできなくな ります。会社が金融業を営むことになるからです。 そして、説明のつかない使途不明金や仮払い金なども疑われることになります。 公明正大な決算書を作ることは、借入においても絶対条件です。 条件 3.決算書を開示している 金融機関から借入れをしている以上、決算書を提示することは義務です。その時 に、前期決算報告と今期経営計画書を作成したいものです。できれば、毎月の収支 報告提出ができれば完璧です。 その他については、業界の動行、環境の変化、突発的な事故など、様々あると思 いますが、すべて常識的な経営を続けている限り、問題は起きないものと思います。 Column 黒字決算へのこだわり 私は会社経営を 26 年間続けましたが、ずっと黒字決算にこだわり続けてきま した。多額な黒字となった時には、経常利益の額にこだわってきました。必要以 上の黒字を計上して、40%もの税金を納めるよりも、社員に賞与や福利厚生費と して還元したいとの想いがあったからです。 私が 42 歳の頃、3 ヵ月も入院した時、決算が終了し、税理士が私のサインを 取るために病室に訪ねてきたことがありました。 その利益額を見ると、大きな黒字となっていました。即座に作り直し、経常利 益を減らし、その分を決算賞与として社員全員に分配するよう指示しました。折 角作り上げた決算書を作り直さなければならなくなった税理士から「なんとかサ インをください」と粘られてもベッドに寝ながら、頑としてはねつけたことが懐 かしく思い出されます。 195

3.決算書は税金の計算根拠 決算の主な目的の 3 番目は税金の計算資料ですが、この認識が薄いように思われ ます。 改めて考えてみましょう。 ☞法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別税など 法人税関連は 4 種類あり、大きな負担になりますが、赤字会社には課されないの で、払いたくなければ赤字にすれば良いことになります。 しかし、赤字会社は公的援助や借入を受けることはできません。創業 3 年間は、 赤字でもよいと言われる方がおりますが間違っています。少しの金額で良いので、 必ず黒字決算にしなくてはならないものです。 そして、決算結果が黒字となり税金を納める時になって慌てることのないよう、 決算前から対策を立てる必要があります。特に注意すべき点は、流動資産の内容で す。赤字決算であれば問題ありませんが、黒字決算の場合、実質的に資産ではない 資産(不良在庫、回収不能な売掛金、社長に対する貸付金や仮払金など)に対して は、利益があったと同じように課せられますから、大変深刻なものと考えなければ なりません。 ☞消費税 消費税は預り金です。売上に乗じた消費税から仕入れや経費に掛かった消費税を 差し引いたものであり、預かっているものです。従って、消費税は最も厳しく取り 立てられます。 対策としては、毎月の売上代金からその税率(業種によって違う)分を別枠にし ておかなければならないと思います。 ◎簡単に考えると(売上×0.1-仕入×0.1)が預り消費税となります。したがって、毎 月の売上の 2%程度を経費扱いにして計上しておくことをお勧めしています。 ☞固定資産税 不動産を購入したり建築したりすると課税される固定資産税は、将来にわたり課 税され固定費化するため、よくよく慎重に考えなくてはならないものです。 経営者の夢として、「自社ビルや立派な店舗を持ちたい」があるものと思います。 これも、平成元年のバブルショックまでは間違った考えではありませんでした。当 時土地神話と言われ、土地は必ず上がるものとの定説があり、借金をして買っても 値上がりにより、プラスになることが信じられていました。 しかし、バブルショック以来 30 年間下がり続け、土地神話は崩れ去りました。 196

したがって、固定資産を取得して税金を払い続け、且つ資産が目減りしていく愚 は避けなければなりません。 ☞所得税 所得にかかる税金は一括して納付する源泉徴収の義務があります。 社員は給与、役員は報酬と呼ばれますが性質が大きく違います。 ・給与:社員の生活給として業績に関係無く支払いを保証するものであり、支 払い方法等は最低賃金や働き方改革などにより厳しく規制されている。 ・役員報酬:役員に業績に応じて支払うものであり、金額についての規制は無 い。しかし、一旦決定するとその年度の変更は簡単に認められないように、 報酬でありながら、1 年間は変更できない矛盾を抱えている。そのため、前 年度から大きく売上が減少した場合、収支改善の足枷になりやすい。 以上、主な税金を説明しました。次にこの税金をいかにして有効に納めてゆくか を考えましょう。 〈節税から創税へ〉 決算時の決算は現実的な営業結果が表されるのでなく、商法、税法により計算さ れるため、思いもよらないことが起きるものです。 ・お金がないのに黒字となった ・税金が払えず税務倒産になりそうだ ・決算の内容により、銀行の貸出し態度が変わった 逆に「赤字だが会社は回っている」など、営業結果と決算内容が一致しないのが 決算でもあります。税理士任せにし、申告の締切間際になり慌てることが無いよ う、毎月の試算表で分析し、決算2ヵ月前には仮決算をし、残った2ヶ月間で計画 通りの決算を作り上げるようにしたいものです。 1. 創税の考え方 決算結果は、将来の財務戦略に大きな影響を与えます。順調な経営状態にあるに せよ、経営困難に陥っている場合であるにせよ、あらかじめ経常利益を決定した上 で、決算処理を行う必要があります。 節税対策は、経営者の仕事として重要なものです。しかし、根本的な節税対策は もっと前向きに捉えた経営計画の一部でなくてはなりません。課税システムを熟知 し、財務の重要な柱と考えて、節税よりさらに深く突っ込み、税金を創造する意識 を持ちたいものです。 197

なお、脱税と粉飾決算は違うものです。脱税は絶対にいけないことですが、粉飾 決算は時と場合により、黙認されるものであることを理解して下さい。 2. 効果的な税金の納め方 経営者は一般的に「利益を上げたいが、税金は納めたくない」と考えていられる 方が多いと思います。 何故でしょうか?それは税金を徴収する国や県、市町村が税金を正しく分配して いないからと思うのは私だけでしょうか? しかし、税金は国民の義務として納めなければならないものです。 そこで税金の支払先及び支払方法を変えることを考えたらいかがでしょうか? 例えば 2 つの例を紹介します。 ・社員に対し賞与で支払う。(社員を通して所得税として支払う) 当然社員は感謝し、より一層やる気に繋がり、業績は上がる。 ・銀行に対し借入れを行ない、金利として支払う。 銀行は、良き融資相手として認めて下さり、ダム経営をすることになり、潤沢な 資金は有利な仕入れ、楽な資金繰り、リスクに対する安心感などに貢献出来る。 その他にもあると思います。税金の支払い方法を変えることも、創税の考え方の 一つです。 3. 決算内容により変化する経費項目 安定して黒字決算を続けるためには、その仕組みを知らなければなりません。 黒字と赤字の決算次第で同じ項目でも、その性格が異なってくるからです。 例えば、次の通りです。 ・役員報酬:急に業績悪化しても、原則としてその期中は減額出来ないため、赤字 の時には足枷になる。 ・不良在庫や売掛金:回収不能分は黒字決算では税金の対照となるため、損金処理 をするが、赤字決算では黒字化に貢献する。 ・仮払金と未払金:黒字決算時は課税対象となるので避けなくてはならないが、赤 字決算時は黒字化に貢献する。 ❖一般管理費の各項目の黒字と赤字時の性質変化を、次頁の一覧表にまとめました。 これを参考にして、創税の方法を研究しましょう。 198

【決算内容により変化する費用の捉え方と活用方法】 項目 黒字決算時 赤字決算時 増やすと福利費や税金などが 黒字にするために徹底して減 役員報酬 引かれ、半分近くになるので 額する。生活費不足分は販管 慎重に考える。 費や仮払金を活用する。 給与 人件費比率 40%を守りながら 固定給から業績給へと変更、 給与を上げる。 変動費化を考える。 賞与 月間、盆暮れ、決算(利益 3 分 少額で良いので、必要経費と 割制)時に支給する。 してスピーディーに支給す る。 削減を研究。ムラ、ムダ、ムリ 社員一丸となって 3 ム運動を 損 排除の節約分は社員に跳ね返 展開。半分に出来ないかを考 販売管理費 益 ることを説明し、一体となっ える。 計 て下げる。 算 税法で認められた最大額を計 使われない資産は非計上と 減価償却費 書 上する。 し、黒字化に役立たせる。 支払金利 金利減額交渉や借換えを実行 金利アップを要求されるので する。 事前に説明する。 営業外損益 不良売掛金や在庫などを処理 損失となるものは見送り、収 し、損失を増やす。 益計上出来るものは活用。 あらかじめ経常利益を決め、 いかに損失があろうとも、税 法人税 納税額をコントロールする。 法上の黒字化を研究、少額を 納税する。 消費税 毎月、売上の 2~3%を積み立 売上減少の場合、中間決算に (預金) て、キチンと収める。 より、予定納税を減額する。 未払金 計上は避ける。 資金繰上、活用する。 仮払金 課税対象となるため、絶対し 赤字幅を減らすことになり、 (主に役員) ない。 効果的。活用後、黒字決算時に 貸 処理する。 借 貸付金 対 借入時、金融業として扱われ、 論外である。金融機関から非 照 (主に役員) 融資を拒否されるので絶対し 難を受け、返済を迫られる。 表 ない。 借入金 融資要請が強く、資金はダブ 返済を迫られるため、計画書 つくのでダム経営の意識を持 の提出など事前に手を打つ。 つ。 ☞※会社の経営状況により変化することを良く理解して下さい。 199

Point プロ経営者の証明は黒字決算計上 決算に対する取り組み方に対して多くの紙面を割いて説明しました。経営者は 決算に対するこだわりが低く、赤字決算の意味を良く理解していないように思え るからです。 赤字とは、収入以上に支出が多いことです。それでは、なぜ赤字でも経営が成 り立っているのか? 1. 借入金により、赤字を補填している 2. 支払うべき買掛金や税金が未納となっている のどちらかです。当然ながらこの状態は、長くは続きません。 2 年連続して赤字が続くと黄色信号が灯り、3 年連続すると赤信号となり、経 営破綻先と見放され、誰も相手にしてくれなくなります。 ・銀行は、融資を拒否、返済を迫ってきます。 1 期の赤字決算は許されても、2~3 期連続ともなると、特別な事情がない限り 金融機関からは返済を迫られることになります。 ・仕入先は、警戒し、信用取引が出来なくなり、現金決済になってゆきます。 ・社員は、将来への希望を失い、離職が相次ぐようになります。 このように黒字決算を続けることは、プロ経営者にとって絶対条件であること を肝に銘じましょう。 ●税理士との向き合い方 経営において頼りになる存在は税理士です。しかし税理士は税務の専門家であ って経営の専門家ではありません。ところが、財務諸表について質問すると、1 つ1つ税理士に聞かないと答えられない経営者が多いのが現実です。税理士に は、経理を依頼しているのであって、財務戦略的な相談をする事そのものに無理 があることを理解しましょう。 決算書の作成を税理士任せにしないで、税理士とよく相談しながら、経営者自 身が納得した上で決算を実行しなければなりません。 私の再建の仕事の中で大きな比重を占めるのは、財務の見直しと税金対策で す。経営者である以上、税務の勉強は避けて通れないことを自覚して下さい。 これからの混沌とした世の中、環境が激変することが予想されます。いかにし て生き残るかが経営者の大きな責任になるように思います。大きな波が押し寄せ ても流されないようにするため、黒字決算を計上しておくことは、プロ経営者の 責務です。 200

財務健全化計画 10 訓 1.全ての数字を額ではなく率で見ること 金額は、様々な条件により上下するが、比率は安定経営の条件だからである。 2.財務は静と動で考えること 静は貸借対照表、動は損益計算書、2つのバランスが重要だからである。 3.決算は黒字決算を貫くこと 黒字決算は、翌年の経営計画の基礎になると同時に、金融機関からの借入資 格を得るために不可欠だからである。 4.売上利益、営業利益、経常利益の違いをよく理解すること 売上利益は営業計画、営業利益は組織計画、経常利益は財務計画として検討 するものだからである。 5.借入金の返済義務は財務内容により生じることを認識すること 金融機関は、経営状況により貸すか返済を迫るか判断するからである。 黒字決算を続けている限り、返済は必要ないものである。 6.人件費比率を売上利益の40%に納めること 人件費比率は40%に押さえ、営業利益が出たら賞与として支給、結果として人 件費比率が増加するようにすること。 7.長期計画と短期計画を同時に考えること 長期計画は将来の姿、短期計画は長期計画達成への道筋を示すからである。 8.収支計画と資金繰り計画を混同しないこと 収支は健全性を、資金繰りは安全性を見るものであることを充分認識しなけれ ばならない。 9.経理と財務の違いを理解すること 経理は過去の記録として必要だが、財務は未来の判断資料として重要だからで ある。 10.脱税と粉飾決算は違うものであることを理解すること 脱税となる過小申告はいけないが、粉飾決算は時と場合により、黙認されるも のである。 201

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Q&A 勉強会参加後のアンケートに対する回答です。双方向で学ぶこと により、一層理解が深まるものと思います。 夏季編 第 4 章 財務健全化計画〈潤沢な資金循環システム〉 財務計画は、知識として知らなければならない商法、税法、金融の仕組みなどを 知るのみでなく、真理で活用することを説明しました。 ① 経理、財務、会計の違いを理解していますか? ② 決算の真の目的を知った上で決算に取り組んでいますか? ③ 税金は結果ではなく、創るもの、つまり、創税の意識を持っていますか? ④ 個人の借金と会社の借入金の性格の違いを明確に答えられますか? ⑤ 収支と資金繰りの違い、お金の静と動、決算により変化する経費項目など把握 されていますか? これらを充分理解しなければ安定した経営はできません。 財務の仕組みはどうしても知らなければならない知識として Q&A が活発に行 われました。 Q39 銀行戦略として、当社は若い会社のためノウハウが無いので、資金調達 のやり方を知りたい。 A 資金調達は、借入条件を満たしていれば難しいものではありません。 借入れの仕組みを理解して下さい。 ◎借入条件は信用力の証明 ① 黒字決算であること。若しくは赤字決算となった理由がはっきりしており、 挽回方法を明示出来ること。 ② 財務内容を、正確に公表できること。 ③ 借入理由に、正当性があること。 ◎借入時期は黒字決算計上後に実行 ① 設立時、経営計画書のみで借り入れることは出来ますが少額です。 ② 初年度の決算を黒字にすることが出来れば、ほぼ間違いなく借入可能です。 借入方法も銀行が親切に教えてくれると思います。そして、銀行とのコミュ ニケーションを密に取ることも忘れてはならないことです。 このようにして、借入の王道を歩めば必ず実現します。創業初年度の決算を黒字 にすることが「信用力の証明」となり、以降は無理のない経営が出来るようになり ます。 203

Q40 労働分配率を一定にするということは、どういうことですか? 0 A 労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合の事です。 『付加価値=売上利益』ですから、『労働分配率=人件費÷売上利益』です。 労働分配率を高くすると経営が困難になり、低くすると社員に不満が出ることに なります。そのほど良いバランスが、「35~40%」ということです。 経営困難に陥る会社のほとんどが、60%以上となっています。労働分配率を一定 に保つことは健全経営の条件になります。 Q41 取引銀行は多い方が良いですか? それとも少数で密に付き合いをした 方が良いですか? A どちらとも言えません。担当者との相性や、その時その時の銀行の考え方、 方針が各銀行で違うからです。 銀行対策は、借り入れを考えない場合は、深く考えることはありませんが、借り 入れを繰り返さないと経営できない状態の時は、慎重に考えないといけません。 いずれにしても、親身になって付き合えるメインバンクは必要です。 Q42 社員の不満を募らせずに、総人件費を圧縮する方法を知りたい。 A 社員全員に対し、経営に対する考え方を根本から説明し全社員が一心同体と なることが最も重要なことです。 様々な経営指標の中で、人件費比率だけは大きくしても小さくてもいけない指標 です。人件費を圧縮するには、全社員に財務内容を公開し利益の分配方法を説明 すれば協力してくれるものです。 それでも協力できない社員は、その理由を良く聞き、意見を汲み上げていくこと になります。その時、会社の為を思っての発言か、自分だけの発言かによって、人 事問題として処遇を決めなければならないものと思います。 そして最も大切なことは、経営者の品性向上に尽きると思います。 大変抽象的な回答になりましたが、社員と一心同体となることは表面的なテクニ ックだけでできることではありません。一言で言うと「社長の器を大きくするもの は何か?」を探究するに尽きると思います。 そして、人件費比率を守ることは人件費を下げることではないことを充分理解し てもらう必要があります。 販売管理費の人件費比率は40%ですが、営業利益が出れば、その中から賞与とし て支給、結果として支給額が増えることになります。この仕組みを理解して頂けれ ば社員のやる気が出ることと思います。 (199頁 人件費比率重視の損益計算書を活用して下さい。) 204

Q43 私は会社の決算書を専門に扱う仕事をしていますが、古川講師による決 算書の見方の解説を、ぜひ聴かせて下さい。 A 私は決算を将来の計画のためのものと考えております。常識から外れるかも しれませんが私なりの視点で申し上げます。 先ず決算の目的は次の 3 つあるように思います。 1. 一年間の経営活動の記録 2. 会社の信用度判定の基礎資料 3. 税金の計算資料 この 3 つの目的のバランスを取ることが正しい決算と思います。 特に重要なものは 2 の信用度判定の資料というものです。 従って、信用度を落とすような決算は絶対に避けるようにしています。 特に赤字決算となった時、どんなに悪くても 2 期連続で止めます。 黒字、赤字は結果論ではなく、計画するものと考えています。 黒字、赤字を左右する各支出項目に対する考え方は、 「決算内容により変化する 費用の見方捉え方と活用方法」 の通りです。 このような捉え方により、どんなに赤字決算であっても黒字決算に導きます。 当然黒字にするための歪が出ますが、それは次期決算までに修正すれば済むこと と思います。 そして 3 つ目の税金の計算資料ですが、これは税金対策としての考え方により経 常利益を決定します。つまり創税の考え方です。 以上簡単に述べました。 Q44 決算の重要性を改めて知りましたが、決算を疎かにしたために起こ る悲劇について詳しく教えて下さい。 A 再建依頼の原因で多くを占めるのが決算処理により、クライシスに陥ったと いうものです。勘違いしてはいけないのは、決して間違った決算や不正な処 理をしたのではなく、当たり前に決算をした結果、経営が立ち行かなくなってしま ったというものです。 例えば、次のような場合です。 ・夫婦で経営、経理担当の妻が病死。経理に疎い社長が社員や取引先に使った経費 を処理しなかったため、税理士は止むを得ず役員報酬とした。それにかかる所得税 を放置したため、国税局に売掛金を差し押さえられ、倒産に追い込まれた。 ・社員に援助したお金を社長への貸付金として処理したために、金融機関からの借 205

入がストップし行き詰まった。 ・回収不能の売掛金や未入金をそのまま計上したために、資産となり課税され、倒 産に至った。 このように、決算処理の仕組みを知っていれば起こらない悲劇を見るにつれ、決 算の重要性を叫ばずにはいられません。 Q45 役員報酬の恐ろしさについて具体的に知りたい。 A 社長は表向きの経費だけでなく、何かと出費がかさみがちです。そこで単純 に役員報酬を増額する場合が多いものです。 しかし、役員報酬から差し引かれる社会保険料(会社負担分と個人負担分)や累進 課税による税率アップなどを考えると、報酬額の半分近くは消えてしまいます。 経営危機に陥っている会社の社長に「報酬はいくら貰っているのですか?」と聞 くと、「貰っていない」の答えがよくあります。しかし、決算書を見るときちんと 計上されています。つまり、「払えないので払っていない」だけであり、未払金処 理をされています。 したがって社会保険と所得税は否応なく課され、それを放置し 1000 万円以上の未 納になると国税局に廻され、売掛金などに差し押さえが入り、倒産に至ります。 このように、社長への報酬が原因で税務倒産の憂き目を見ることがないよう、よ くよく考えなくてはなりません。役員報酬に頼らなくても、資金捻出には様々な方 法があるものです。 206


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