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クオリティクラブ9_10月号

Published by 厂崎敬一郎, 2021-10-20 13:39:38

Description: クオリティクラブ9_10月号

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28No. 2021 9 10



2021 9 10 No.28 Contents シリーズ ……………………………………………………………………………………………………… 3   第24回  河野光学レンズ株式会社 代表取締役社長 上田 暢昭  氏 シリーズ   …………………………………………………………… 7   第 3 回 人材育成を促す仕組み シリーズ   ……………………………………………………… 9   第 3 回 やり忘れミスの原因は手順にあり シリーズ   ………………………………………………………… 13   第 2 回 日本のソフトウェア品質に関する知恵を結集! SQuBOK ガイド シリーズ  BCP ……………………………………………… 15   第 1 回 BCP の鍵を握るのは災害時の損失の予測 62 …………………………………………………………… 11 QC 50 ……………………………………………… 17 eBook pick up ……………………………………………………… 19 …………………………………………………………………………………………………………………… 21 …………………………………………………… 22 [事業広告] クオリティフォーラム 2021 …………………………………………… 1 第 112 回品質管理シンポジウム ……………………………………… 6 第 51 回全日本選抜 QC サークル大会(小集団改善活動) ………… 20 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 2

 「5Sはもちろん,小 集 団 活 動をしたことがなけれ ―改めて,日本品質奨励賞に挑戦しようと思われた ば 提 案 制 度を取り入れたこともな かった―― 」。 TQ M きっかけをお聞かせください。 の 推 進に熱 心 な 関 係 者 が 聞けば 卒 倒 するような 思い 出 話 をさらりと言ってのけるのは , 光 学レンズ やプリ ズム製 造を手がける河野光学レンズ株式会社の上田 暢昭社長。とはいえ,その言葉が 額面通りでないこ とは,2020年度の日本品質奨 励賞TQM奨 励賞を 受 賞した事 実を示すだけで事足りるだろう。同社は 創 業15 0 年 余の 老 舗 企 業 である 。 本 社 機 能は 東 京に あるが,製 造は秋田県 横手市の工 場が 担う。「150 年 の 歴 史 は自己 満 足で は な いか 」 という自 問 自 答 も 後 押しをしたTQ M 奨 励 賞 挑 戦への 経 緯 や品 質への取 り組み,今後の展望などを上田社長に聞いた。 ― 2020年度日本品質奨励賞TQM奨励賞の受賞, おめでとうございます。お喜びの声をお聞かせくださ い。 ―社員の方たちの受け止めは。 ―日本品質奨励賞の挑戦に対して,社長を含む上層 部の思いは現場にうまく伝わりましたか。 3 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

―専務と推進室が主に担当された工場における活動 では,どのようなことを重視されましたか。  ―エコステージ3の認証取得から日本品質奨励賞へ ―新型コロナウイルス禍ならではのご苦労もあった の挑戦までに少し間がありますね。 のでは。 ― TQM奨励賞の受賞を契機として,社内の雰囲気 や社員のモチベーションなどに変化はありましたか。 ―活動を進めていくにあたって苦労されたのはどん なことですか。 ―一連のTQM活動は人財育成を進めていく上で, どのように役立ちましたか。 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 4

―受賞を踏まえた今後の経営の重点は。 ―人財育成の一環として導入されている社内インス トラクター制度とはどのような仕組みですか。 ―今後の展望をお聞かせください。 ―作業手順書の作成にも独自のアイデアを盛り込ま れていると伺いましたが。 ―創業200周年に向けた心構えは。 ―TQM活動の成果を改めて総括してください。 ―貴社の手がけるレンズを通して見るように経営の 視界は明るいようですね。本日はありがとうございま した。 河野光学レンズ株式会社 [ 代表者 ] [本社所在地] [主 な 事 業] [従業員数] 5 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

Profile

シリーズ 品質教育を核にした人材育成のすすめ 第3回 人材育成を促す仕組み 村川技術士事務所 所長 村川 賢司 組織が経営目標・戦略を策定し,持続的発展に臨む 分野 職場外教育① 職場外の品質教育② 職場外教育③ 職場内 とき,経営のツールである TQM が大きく寄与します。 組織内 組織外 TQM を推進する組織的な取組み(第1回の図4参照) 階層 職位別 職能別 課題別 個性化 教育 のための組織能力向上には,中長期的な視点のもとで 教育 教育 の人材育成計画が不可欠です(第2回参照)。加えて, この計画に基づいて能力ある人材を育成する仕組みが 上級管理者 役員 トップ ないと期待する成果が得られません。 革新・戦略 セミナー セミナー 本稿は,組織内の教育を階層別と分野別に一覧化し コース 品質管理 部課長 ・・ た教育体系,人材育成を組織的に推進する仕組み,個 セミナー コース 人の成長を促す仕組み,という3つの人材育成を促す 中級管理者 マネジメント マネジメント コース コース 品質管理 中堅 セミナー 教育 入門コース 3/5/10年 導入 導入コース QC サークル 教育 リーダー QCサークル コース 労働安全衛生教育 大会 技能取得支援 仕組みに焦点を当て,事例を交えて紹介します。 図2 教育体系の例 *引用・参考文献[1]p.54,図3.1より転載 プログラムの概念を表した事例です。図2は,教育体 1 階層別分野別教育体系(教育体系) 系に具体的な研修プログラムを整理した事例です。 図2の教育体系は,階層を縦軸にし,分野を横軸に 階層別分野別教育体系(以下,教育体系という)は, したマトリックスを作り,階層と分野とで形成される 組織の教育・訓練の全体像を俯瞰し,研修プログラム セル内に対応する研修プログラムを一覧化することで の抜け・重複・改善点を把握できることが肝要です。 体系化できます。階層は,経営層,部課長など管理者, 研修プログラムは,特定条件を満たす人を対象に, 一般従業員等が対象です。また,分野は,能力分野を 特定の知識・技能の習得や実務への適用能力の向上を 意味し,製品・サービス実現に必要な固有技術の能力, 目的に,特定カリキュラムに沿って行う教育です。 品質管理に関する問題解決やデータ分析など管理技術 図1は,各階層に期待される能力と育成のねらいを の能力,リーダーシップやコミュニケーションなどの 明確にしたうえで,これを実現するために必要な研修 組織人としての基礎的な能力などです。 経営層を委員長に関係部門長で 期待される能力 人材育成の 職場外教育 品質教育 職場内 構成する人材育成委員会などが中 教育 心になり,各階層の人材育成のね ねらい 職位別 職能別 組織内 組織外 実践教育 らいをもとに層別して縦軸を構成 自己啓発 する階層を確定し,また組織内の 経営層 経営レベルの意思決定に参画できる コンセプチュアルス すべての研修プログラムを把握し 能力 研修 て横軸を構成する分野を決定し, キルの獲得 研修 研修 プログラム 教育体系を作成します。新人から プログラム 経営層へ至る長期的な視点で人を 業務完遂能力,相当高度の調査・研 (構 想 力,構 成 力, プログラム I 育てることを基本思想に据え,各 究・企画立案・渉外ができる能力 企画力の育成など) A E 人の人材育成計画とキャリアプラ 研修 ン(第2回の図表5参照)の達成 高度熟練業務,管理者として業務に ヒ ュ ー マ ン ス キ ル プログラム に合わせて能力向上と自己実現が 図られる観点が大切です。 精通し,遂行にあたり部下を指導・ の獲得(管理能力, 研修 J 対 人 的 問 題 処 理 能 研修 プログラム 監督できる能力 プログラム F 高度熟練業務に精通し,独立して担 力などの育成) B 研修 当できる能力.具体的計画を立て, テ ク ニ カ ル ス キ ル プログラム 部下に処理させる能力 の獲得 G (適 応・専 門 能 力, 図 2 参照 決められた標準により段取りをた 知 識・技 術 な ど の て普通程度の創意と判断に基づき 育成) 研修 研修 日常一般業務を処理する能力 プログラム プログラム C K ある程度の半熟練業務遂行能力 普通程度の経験,知識・技術をもっ 能力・個性の発掘 て定期的業務を処理する能力 (個人の能力,特技, 直接的指導・監督のもと初歩的技術 特性などの把握) 研修 プログラム ・知識で定期業務を行う能力 生活指導を含めた D 初歩的技術・知識で単純かつ定型的 個人指導 な業務の補助作業を行う能力 研修 自主管理能力 良好なパートナーシッ プログラム プ,コミュニケーション L 図1 教育体系の概念 *引用・参考文献[1]p.29,図1.8をもとに作成 教育体系は一朝一夕では確立で 7 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

シリーズ 品質教育を核にした人材育成のすすめ③  きません。図2の教育体系は,領域 A ➡ B ➡ C の順番 また,この実現が各人の自己実現や組織への帰属意識 で,各領域は三角形の底辺から頂点へ向けて,研修プ を高めるうえで少なからぬ影響を及ぼします。そのた ログラムを徐々に整備し,また見直し,体系を段階的 め,ある一定の期間をサイクルに,個人ごとの能力を に充実しながら現在の姿に至っています。 継続的に向上していく仕組みの確立が必要です。 2 人材育成を組織的に推進する仕組み 図4は,1年間をサイクルとして個人の成長を促す 仕組みの事例です。各個人が自己評価したあと,上司 人材育成計画の立案,教育体系の確立,研修プログ と一緒に能力開発分野を決めて教育計画を立て,教育 ラムの実施,これらの実施状況と結果の確認・評価, 体系内の研修プログラムを受講し,さらに実践教育の 教育体系と研修プログラムの見直しなど,人材育成の 一環として改善活動に臨みます。その実施状況と結果 諸活動を組織的に推進するには,年間などある一定の を確認・評価して翌年の人材育成計画に反映する仕組 期間に管理のサイクルを回す仕組みがいります。 みを確立し,一人ひとりの能力を高めていきます。 図 3 は,人材育成に関する計画立案,教育・訓練の 経営層の人材育成への主体的で明確な意思のもとで 実施,評価,処置のステップを縦軸に,組織内の経営 人材育成の仕組みを確立し,実直に運営管理すること 層を含む関連部門,会議体,標準・帳票などを横軸に が事業にかかわる全ての人の成長,部門の使命・役割 とった枠組みを作り,縦横軸の該当箇所に品質教育の の達成,TQM の要諦となる顧客価値創造を実現する 実施事項を記述した,人材育成を組織的に推進する 品質保証の組織能力向上へ向けての正攻法となります。 PDCA のサイクルを回すための仕組みの事例です。 中期経営計画 概ね年度で 誰もが納得する透明な仕組みを構築して運営管理し, 人材育成計画 フィードバック 人材育成が計画の通りに進んで目的を達成しているか, その効率は良いかなどを,1年を越さない間隔で定期 (従業員が備えなければなら 的に確認・評価し,人材育成の管理のサイクルを回す ない 基 礎 的な能 力の水 準, 仕組みを改善していきます。このことによって計画的 開発計画,達成度評価など) で組織的な人材育成の推進が可能になります。 管理者を除く一般従業員 管理者 (評価項目の例) ◆基本的能力  ①業務知識 ②技術・技能 ◆習熟的能力  ③決断力  ④折衝・渉外力  ⑤指導力(組織統括力) 3 個人の成長を促す仕組み ◆意欲・態度  ⑥責任・使命感  ⑦創意工夫・改善改革・挑戦意欲 ◆業務実践度  ⑧管理監督者としての職務実践度  ⑨企業・社会への貢献度 日々の業務遂行に携わる一人ひとりが人材育成計画   ( ) とキャリアプランに沿って能力を向上し,良い仕事が できる能力を獲得することが,顧客・社会のニーズ・  ⑩業績・成果 期待を満たす製品・サービスの提供の前提になります。 図4 個人ごとの能力を高めていくサイクルの例 *引用・参考文献[2]p.128,図3.22をもとに作成 経営層 人材育成委員会 各部門 F 会議体 標準 組 織の存 在 価 値を高める人材の能力開 発に力を尽く 帳票 すうえで,人を育てる仕 組みを弛まず 深 化させることが (人事部門) (営業,設計・開発,製造,調達,総務・経理など) B 組 織の持 続的 発展をより確 実にするものと思われます。 企業行動規範 経営基本方針 * * * 次回は,本稿を受けて,教育体系に基づき日常業務 経営目標・戦略 経営会議 教育規程 から離れて行う階層別の集合教育を紹介します。 中長期人材育成計画 中長期人材 [引用・参考文献] 年度人材育成計画(重点課題・目標・方策) 人材育成委員会 育成計画 [1]村川賢司,『企業の持続的発展を支える人材育成-品質を核に 年度人材 する教育の実践』,日本規格協会,2019 育成計画 [2]中條武志・山田秀編著,日本品質管理学会標準委員会編,『TQM 投資計画書 の基本』,日科技連出版社,2006 [3]日本品質管理学会規格 JSQC-Std 41-001,『品質管理教育 教育ニーズの収集(各部門) 教育ニーズ 実施計画(各部門) 調査票 の指針』,日本品質管理学会,2017 経営資源の準備 実施計画書 職場外教育 職場内教育 個人面談 社外 社内 改善 研修プログラム 集合教育 集合教育 OJT 活動 OJT実施要領 改善活動実施 要領 研修アンケート ※ 実践教育※ 小集団改善活動 教育実施記録 OTJ実施 改善活動 改善発表会 教育計画・実績表 改善活動成果発表 資格取得 状況評価 報告 OJY実施評価表 改善活動報告書 個人ごとの自己評価 資格一覧表 自己評価表 個人ごとの能力評価 個人面談 スキルマップ 部門としての能力評価 人材マップ 研修プログラム Profile 村川 賢司(むらかわ けんじ) の評価 1976 年に東京工業大学建築系大学院を修了し,前田建設 教育体系の評価 人材育成委員会 階層別分野別 工業㈱入社。TQM 推進や経営企画畑を歩み,1989 年デミ 教育体系 ング賞実施賞,1995 年日本品質管理賞の事務局を担う。  仕組みの 2011年に技術士事務所を開設し,現在に至る。主な著書は  強み・弱みの特定 人材育成委員会 『企業の持続的発展を支える人材育成-品質を核にする教 育の実践(』日本規格協会,2019 年度 日経品質管理文献 改善計画の立案・実施 賞受賞)。 図3 人材育成の管理のサイクルを回す仕組みの例 *引用・参考文献[1]p.140,図6.1より転載 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 8

シリーズ マニュアルがダメだからミスが減らない 第3回 やり忘れミスの原因は手順にあり 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 中田 亨 1 恐るべきやり忘れミス 開始 手順をやり忘れてしまうというミスは,時として恐 砂糖を入れる 塩を入れる ろしい結果を生みます。例えば 2017 年,日本のある 病院にて,血管にカテーテルを挿入する手術が行われ 両方そろったか? ました。カテーテルを誘導するためにワイヤを一時的 に使うのですが,医師は回収することを忘れてしまい 完了 ました。翌年,カテーテルを取り除く際にワイヤが心 臓を貫通して,患者は死亡しました。 図1 揃い待ち合流のある手順 しかし,忘れのミスを非難できるものでしょうか。 は複数の事を同時に頼まれると,残務の存在を忘れ, 出かける際に腕時計を忘れるぐらいのミスなら,人間 取りこぼしてしまう傾向があります。 だれでも日常的に犯しています。「しっかりしていな 「A と B とを行う」という形の指示は,マニュアルで いのが悪い」という批判は,「ミスを一切しない人間に しばしば見かける表現です。何気ないようですが,こ なればよい」という無い物ねだりになってしまいます。 れは複数の課題を順不同で指令するものであり,やり 忘れミスを誘います。 人間の記憶力や注意力に頼ることは止めましょう。 「マニュアルが悪いから,作業者が忘れてしまうのだ」 人間には,課題を一つ一つ与える方が安全と言えま す。作業から分岐や合流を取り除き,一本道にする方 と考えるべきなのです。忘れを防ぐ手順を組むことで が人間の性に合っています。 ミスに対抗しましょう。すでに作業の手順があったと しても,それがミスを誘わないか疑ってください。 人間の記憶力には,一本道に固定された順番で並ん だ事項は暗記しやすいという,不思議な特徴がありま 2 揃い待ち合流という罠 す。順不同で 20 個の単語を暗記するという課題は相 当難しいですが,歌の歌詞ならかなり長いものでも覚 「やり忘れミスを引き起こす原因は記憶力にある」 えることができます。京都の通りの覚え歌には,「あ と思われがちです。 ねさん六角蛸にしき」という珍妙なフレーズが出現し ますが,印象が強く残り,意外と覚えやすいものです。 しかし,本当の原因は作業手順の構造にこそありま 音の響きを丸暗記することは楽なのです。 す。「揃い待ち合流」と呼ばれる構造が,ミスを引き起 こす最大の元凶なのです。 図1の例を改良するならば,図2のように,「まず砂 糖を入れる。次に塩を入れる」と順番を指定するべき 例えば,「砂糖と塩を入れる」という作業を考えて です。 見ましょう。この手順の構造を描けば,図1のような, 「調味料を入れる順番は,さしすせそ」と言われます。 分岐と合流になります。砂糖と塩という2つの目標が 料理する時,この語呂合わせの順番を守って,先頭か あり,どちらを先に済ませても構いません。合流の際 ら順番に課題を潰していけば,途中で何かが抜けると に,「両方済ませたか?」という点検を受けて,先に進 いうミスを防げます。 みます。これを揃い待ち合流と呼びます。 人間は,揃い待ち合流をうまく管理できません。砂 糖を入れ終えると,達成感にひたって油断して,塩も 入れなければならないことを忘れがちなのです。人間 9 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

シリーズ マニュアルがダメだからミスが減らない③  開始 4 途中集合をかける 砂糖を入れる 複数の課題を同時に指令することは,やり忘れを誘 うので危険であり,避けるべきと述べました。しかし, 塩を入れる 都合により,どうしてもそのように指示をしなければ ならない場合もあります。 味見する ある食品工場での話です。うどん生地を製造する工 完了 程で,原材料の調合ミスが多発していました。小麦粉 と,水,塩を調合して,生地こね機に投入するのです 図2 揃い待ち合流を除去した手順 が,商品によって配合が微妙に違っていてまぎらわし いのです。 古式ゆかしい作法では,順番の固定が多く見られま す。弓道には「弓道八節」という決められた動作順序が 初心者は,小麦粉を計量し,すぐに機械に入れます。 あります。相撲の取り組み前の所作である「塵手水」も, 次に,水や塩も同様に量って次々に投入していました。 固定された手順をなぞります。順序が決まっているか ら習熟しやすく,いつもと同じ動作を繰り返すことで 一方,ベテランは小麦粉を量り終えても,すぐに機 平常心を得ることができます。 械に投入しません。機械の前にトレーを置いて,そこ に量り終えた小麦粉を置きます。水や塩も,量ってト 3 場所を決めて待ち伏せる レーの上に整列させます。全ての物が整列した,いわ ば集合写真のような状態を作ります。 アメリカ建国の父の一人,ベンジャミン・フランク リンは,「物は場所を決めて置く」というモットーを持 ● 全ての物が一堂に会している。(隠れているもの っていました。これはミスを防ぐ上で非常に重要な心 や,遠くにあるものが無い。) がけです。 ● 全ての物が整列している。 物について,普段それを置く場所や,持ち出してよ ● 全ての物が動かず静止している。 い範囲を定めると,紛失や混入といった事故がなくな これこそが,人間にとって最も点検しやすい状態で りますし,物探しの手間も防げます。 すが,トレーの上でまさに実現できています。ベテラ ンは,点検のための途中集合を入れることでミスを防 作業についても,その実行の場所を決めることが, いでいたのでした。 安全の基本となります。行き当たりばったりで,不安 思えば,日常生活でもこの知恵は役に立ちます。大 定な足場や,通行人が多い通路,可燃物が多い所で, 勢で登山する際は,「ゴールの山頂で会おう」とは指示 即興的に作業を始めては事故になることは必至です。 しません。途中で迷子になる人が続出して収集が付か なくなります。 手順を一本道にするとよいと述べましたが,その道 普通,我々は途中集合をかけます。「 9時に A 広場 を実際の場所に対応できれば最善です。人の移動コー に全員集合。10 時に B 峠に全員集合。早く着けた人も, スを定め,忘れていけない物や行為は,経路上で待ち そこで待っていて。記念写真を撮ろう」と,小刻みに 伏せさせておけばよいのです。 集合をかけて,点検します。 ミスが多い難しい仕事ならば,登山と同じように, 例えば,出かける際には玄関を通りかかります。玄 途中で何回か集合写真方式で点検するべきでしょう。 関にお盆を置いて,腕時計や診察券などの忘れてはな マニュアルの中で,「ここまで進んだら,一旦手を止め らない物をまとめておきます。すると,出かける際に, よう。全ての部品を整列させてみて,抜けが無いか点 それらが必ず目に入りますから,忘れ物をすることが 検せよ」と指示を入れます。 あり得なくなります。 「作業効率のために途中止まるな。ゴールだけで点 検すればいい」は,無茶な発想です。 マニュアルは,その文面だけでなく,作業位置との 呼応も大事なのです。位置がしっかりしていれば,待 Profile 中田 亨(なかた とおる) ち伏せによってミスを退治できます。 産業技術総合研究所 副連携研究室長。中央大学客員教 授。専門はヒューマンエラー。内閣府消費者安全調査委員 としても安全工学の普及に務めている。著書に『マニュア ルをナメるな!『』多様性工学』など。 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 10

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シリーズ 女子トーク:ソフトウェア品質を語る 第2回 日本のソフトウェア品質に関する 知恵を結集! SQuBOKガイド 株式会社日立ハイテク 飯泉 紀子 今回は,ソフトウェア品質をテーマとしたリレー執 2 “ 品質は作り込むもの ” という考え方 筆の2回目です。第1回では誉田直美さんが,ソフト ウェア危機はなぜ起こるか,をテーマにトークを繰り ソフトウェアの開発工程を示すオーソドックスなモ 広げました。その理由として,「ソフトウェア開発は, デルに V 字モデルがあります。図1に示すように,要 問題が起きても人海戦術で収められるという誤解」や 求定義,システム設計,構造設計,詳細設計までを左 「真面目で長期的な改善への取り組みが面倒」,そして 側に,単体テスト,統合テスト,システムテスト,受 「ソフトウェア産業の多重下請け構造」を挙げていま 入れテストといった各種テストを右側に配置し,左右 した。 の同じレベルどうしが呼応することを示しています。 この V 字モデルの左側を「品質を作り込む工程」,右側 第2回では,ソフトウェア危機を乗り越えるために を「品質を確認する工程」と呼びます。品質作り込み 実践されてきた取組みと,今後のソフトウェア品質向 とは,要求定義や設計の段階で,各種設計技法やレビ 上の鍵となる考え方についてお話します。 ュー技法を駆使し高品質な中間成果物を生成すること を指します。右側のテストでは,品質の良し悪しはわ 1 日本のメインフレーマーが実践した かっても,品質を根本的に良くすることはできません。 要求定義や設計が適切でなければ,それ以上の品質に  “ 工程管理 ” という考え方 はならないからです。つまり,左側の工程が品質の上 ソフトウェアが製品の一部として搭載されだした 限を決めるといっても過言ではなく,品質は作り込む 1970 年ごろは,ハードウェアの品質管理手法をソフ ものという考え方を重視するようになりました。 トウェアに適用することを試みていました。ソフトウ ェアの完成品のバラつきを管理し,基準値内に収まっ [品質を作り込む工程] [品質を確認する工程] ているかどうかを見て生産の状態を統計的に管理しよ うとしたわけです。ハードウェアの場合,部品やそれ 要求定義 受入れテスト らを組み上げた完成品が管理の対象となります。これ をソフトウェアに置き換えると,ある機能を実装した システム設計 システムテスト プログラムや,それらを結合させ目的の機能を果たす 完成品(システム)が管理の対象となります。ただ,ソ 構造設計 統合テスト フトウェアは,プログラミング言語で書かれたコード とデータによる “ ふるまい ” が成果物であり,それは 詳細設計 単体テスト 形として見えるものではありません。またソフトウェ アには “ 量産 ” という概念はなく,コピーすればよい 実装/コードレビュー だけです。このため,ソフトウェアの生産工程を管理 するのではなく,開発の工程の管理に注目するように 図1 V字モデルのイメージ* なりました。ソフトウェア開発を,設計-実装-テス *SQuBOK第3版の内容を参考に作図 トといった工程に分け,その工程で生成される成果物 (中間成果物と呼びます)の出来栄えを管理する工程 3  日形式本知のにソフトウェア品質への取り組みを 管理によって,完成品の品質を担保しようとしたわけ です。 工程管理や品質作り込みという考え方は,SPC シン ポジウム(SQiP シンポジウムの前身)などで各社が紹 介する事例に共通するものでした。ここに日本のこだ わりが表れていることは,ソフトウェア品質をテーマ 13 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

シリーズ 女子トーク:ソフトウェア品質を語る② とした海外視察団(SPCT)においても確認され,これ ソフトウェア)」など,最新の知識領域を追加していま らがその後 2005 年に,ソフトウェア品質という軸で す。執筆協力者の顔触れは,第 2 版から比べると半分 知識や技術を体系化する試みである SQuBOK 策定に ほどが入れ替わりました。 つながっています。各社がそれぞれに行ってきた品質 作り込みや品質確保の取組みを形式知にすることで, 同時に,品質の捉え方も多様化しており,その点に 企業を超えて共有し,学びあい,発展できるようにし ついても記述を更新しています。第 1 版を発刊したこ たいということが,SQuBOK 策定の動機の一つです。 ろは,どうやってバグのないソフトウェアをシステマ 当時,PMBOK や SWEBOK という,専門領域の知識を ティックに粛々と開発できるようにするかが注目され 集めアクセスしやすいように整理した知識体系ガイド ていました。これは現在も関心ごと No.1 の事項だと (Body Of Knowledge)が世の中に出回っていました 思いますが,これだけでは「品質が良い」とは言えなく が,ソフトウェア品質という軸で知識や技術を体系化 なってきています。ICT の進展によって品質に対する する試みはなく,SQuBOK は日本発の知識体系となっ 要求の範囲が広がり,その結果,さまざまな品質特性 たわけです。 を備えることを求められるようになってきています。 例えば trustworthiness といった,日本語にはし難い 2007 年に発刊した SQuBOK ガイド第1版では,ソ 特性も品質の概念に含まれるようになってきています。 フトウェアの品質を確保するための基盤知識を整理 しました。品質に関する知識を樹形図にするという作 このようにソフトウェア品質に関する知識を結集し 業はこれまで誰も行ったことのないことで,長年にわ 体系化する作業は,現場から一歩引いて客観的に考察 たり民間企業や教育機関・研究機関でソフトウェア品 する機会でもあります。この定点観察を 15 年以上に 質と格闘してきた人々が知恵を出し合い樹形図を構築 わたり行う中で気づいたことは,ソフトウェア開発技 し,知識や技術に関する解説を 27 名で執筆しました。 術の進化や実用化の “ スピードの速さ ” と,品質文化 2014 年に発刊した SQuBOK ガイド第 2 版では,要求 の醸成にかかる “ 時間の長さ ” という,二つの時間軸 分析,設計,実装といった開発に関する品質技術と, の違いです。昨今の ICT を活用した製品・サービスの 使用性,セーフティ,セキュリティといった専門的品 提供において,技術やツールの進化やその応用のスピ 質特性の記述を追加しました。新たな知識領域を追加 ードに適応・投資しつつ,大勢のエンジニアがロジッ したため,執筆協力者は第1版の約2倍となり,その クとデータを操りソフトウェアを構築する土台として 分,全体を校正するのに手間と時間がかかりました。 品質文化を作り上げる長期的な取り組みが不可欠です。 4  長ソ期フト的なウ取ェアり組品み質のの確両者保がに不は可スピ欠ード感と 1970 年代のソフトウェア品質の管理の仕方に始ま り,ソフトウェア品質に関する暗黙知を形式知にする 知識体系は恒久的なものではなく,技術の進化や世 試みと,それを通しての気づきについて述べてきまし の中の動きに伴って変化するものです。2010 年以降, た。第1回の「ソフトウェア危機はなぜ起こるのか」の ソフトウェアのライフサイクルや利用環境,社会にお 理由の一つとして,真面目で長期的な改善への取り組 ける役割などが大きく変わりました。社会の変化にタ みを面倒と考える傾向があることを述べています。愚 イムリーに対応するための改変のスピードが価値とな 直な改善活動と最新技術の追随という異なる時間軸に り,ダイナミックな環境の変化への対応を当然のよう どのように取り組むかが,今後のソフトウェア品質向 に求められます。今やソフトウェアの役割は,人の予 上の鍵となります。つまり,継続的な品質文化の醸成 測や判断を補助あるいは代替するものへと急速に進化 と変化に適切に対応するスピードの両者が,持続的な しています。このような状況を受け,普遍的な品質に ソフトウェア品質の確保,ひいては持続的社会の実現 対する考え方とともに,最新のテーマを整理して体系 に必須のことであると考えます。 化したものが SQuBOK ガイド第3版です。社会の課 題解決においてソフトウェアが果たす役割が広がるに 第3回では,つながる時代のソフトウェア品質につ つれ,益々重要視されるようになった「ユーザビリテ いて,その技術動向をご紹介します。 ィ」「セーフティ」「セキュリティ」「プライバシー」につ いて,それらの品質の概念と技法の記述を拡充しまし Profile 飯泉 紀子(いいずみ のりこ) た。また,「人工知能システム」「IoT システム」「アジャ 製造業でプロダクトソフトウェア開発や高品質ソフトウェ イル開発」「クラウドサービス」「OSS(オープンソース アの研究に 25 年以上従事。SQiP 研究会では,15 年以上に わたり指導を継続中。SQuBOK ガイドの策定に第 1版から 携わり,第 3 版ではリーダーを務める。 技術士(情報工学部門),MBA,キャリアコンサルタント。 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 14

シリーズ BCP の実現を支援する品質コストアプローチ 第1回 BCP の鍵を握るのは災害時の損失の予測 早稲田大学商学学術院教授 伊藤 嘉博 1 はじめに おきたいと思います。 BCP は,「大地震等の自然災害,感染症のまん延,テ コロナ禍の出現で,世界経済は総じて深刻な状況に 陥っています。未だ終息が見通せない状況のなか,廃 ロ等の事件,大事故,サプライチェーン(供給網)の途 業の危機に直面する企業も少なくありません。2011 絶,突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生し 年の東日本大震災を契機として,わが国でも企業が ても,重要な事業を中断させない,または中断しても 緊急事態に直面した際に事業資産の損害を最小限に 可能な限り短い期間で復旧させるための方針,体制, とどめるために,平常時に行うべき活動や緊急時に 手順等を示した計画」(内閣府防災担当「事業継続ガイ おける事業継続のための手段に関する計画策定の必 ドライン第3版」)のことです。また,この計画を活用 要性が叫ばれてきました。当該計画は,事業継続計画 して展開される包括的な経営管理活動は事業継続管 (business continuity plan:BCP)と呼ばれています 理(business continuity management:BCM)と呼ば が,とりわけ諸外国に比べ自然災害に見舞われるリス れます。BCM に関するガイドラインや規格は多数あ クが高いにもかかわらず,わが国では BCP の策定は り,なかでも国際標準化機構の規格である ISO22301 遅々として進んでいないのが現状です。また,計画そ や英国規格協会の規格 BS25999 は広く知られていま のものは策定していたとしても,リスクが顕在化した す。このことからも分かるように,BCP および BCM 時点(インシデント発生時)ではほとんど機能しない は今や世界的な潮流といえますが,冒頭で触れたよう ことが,苦しくも今回のコロナ禍によって明らかにな に,わが国での取り組みは相対的に遅れているといっ りました。 てよいでしょう。 そこで,このシリーズでは,従来の BCP に内在す ともあれ,BCM は従来の防災対策とは,なにが異な る問題点ないし課題を抽出したうえで,その解決に るのでしょうか。BCM の中心は BCP の策定にありま 寄 与 す る ア プ ロ ー チ と し て,機 会 損 失 コ ス ト 分 析 すので,以下ではこのプロセスに的を絞って考察して (opportunity loss-cost analysis : OLCA)を取り上げ いくことにします。 て検討します。OLCA は品質コストをベースとするア プローチで,BCP の実践を阻害している要因を取り除 3 BCP 策定の阻害要因 いて,これを実効性のあるものに再構築することを支 援するものです。 従来の防災対策は,インシデント発生時に企業が 被る物的損害の軽減が主要な目的とされてきました。 その分析の特徴は,計算がシンプルで分かりやすい BCP ではこれに加え,文字通り業務の継続と早期復旧 ということに加えて,仮にインシデントが発生しない が最優先課題となっています。また,リスクそのもの 場合でも,分析を通じて追加的な利益獲得機会の探索 の対象,すなわち事業の中断をもたらす事象もより広 に寄与するという点にあります。 範にとらえられており,それはあらゆるインシデント であるといってよいでしょう。さらに,損害額の見積 2 BCP の特徴とその問題点 りもさることながら,BCP では復旧時間や目標復旧レ ベルの設定と達成度も検討されることになります。し OLCA について解説する前に,まずは BCP の現況を かも,その対象は自社が所有する拠点だけでなく,委 概観し,そこに内在する問題点や課題を明らかにして 託,調達,供給先といったサプライチェーンにも及び, 15 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

シリーズ BCP の実現を支援する品質コストアプローチ① 全社をあげて組織横断的に取り組むことが前提となっ き出すのは困難となります。これでは,実行力ある効 ているといった特徴を見出すことができます。 果的な対応策を検討しようにも,なにから手を付けて よいのか迷うことになるでしょう。仮にそうであった このように,リスクのタイプやマネジメントの対象, としても,上記のプロセスはけっして避けて通ること さらにはマネジメントシステムの構造など,BCP では はできない,いわば BCP の宿命といえます。 すべてが多岐にわたっていて,企業の多くの部門のみ ならず,協力企業や取引先をも巻き込んだ行動計画が そこで,自社が優先的に提供すべき商品・サービス 必要となります。それだけに,実効性のある計画を立 を特定し,最優先に確保すべき資源などに的を絞って 案するには相当の困難さが予想されます。 取り組むことになるのですが,前述のように包括的な 行動計画を特徴とする BCP の場合には,さまざまな要 実際,みずほ情報総研の調査[1]によると,日本では 素や対応を網羅して計画がどうしても複雑化する傾向 コロナ禍以前から BCP に着手していたという企業は が否めません。もちろん,網羅性が増せばリスクへの 39.2%にとどまり,現在新たに策定中および策定して 対応度は高まりますが,その分計画の緻密性が低くな いないと回答した企業がそれぞれ 2 割ほどに昇りま り,インシデントによっては実行力のある計画とはな した。また,帝国データバンクの調査[2]では,策定済 らなくなることもありうるのです。 み企業は 16.6%,現在策定中が 9.7%,策定を検討中 が 26.6%という結果でした。いずれにしても,これだ それでは,こうした BCP に内在する問題を克服する け自然災害に見舞われる機会が多い日本にあって,未 ことは可能なのでしょうか。少なくとも,OLCA を活 だ BCP の必要性を認識していない企業が多いことに 用すれば,リスクのタイプにかかわりなく実効力のあ 驚かされます。それ以上に興味深いのは,先のみずほ る BCP を練ることができると期待されます。 情報総研の調査で「コロナ禍において BCP が機能した か」を策定時期を問わず尋ねた結果,「効果的に機能し 5 機会損失へのフォーカス た」16.7%,「少しは機能した」44.5%に対し,「あまり 機能しなかった」23.3%,「まったく機能しなかった」 OLCA は品質コストをベースとしたアプローチです。 4.3%と否定的な意見がかなり目立ったことです。は 品質コストに関する議論では,品質管理は投資であり, たして,BCP の策定はコロナ禍対策としては無意味な リターンを確認するのは当たり前だと考えます。この のでしょうか。 投資効果の評価にあたっては,品質管理のための投資 額(予防コストおよび評価コスト)と,当該管理が不備 コロナ禍に限らず,BCP が期待通りの効果を発揮で であったためによって生じる損失額(失敗コスト)の きていない理由は,計画の実現を支える支援システム 減少効果とのトレードオフ関係にフォーカスしますが, が未整備なことが背景にあるのはないではないでしょ 近年では後者に機会損失(品質トラブルによる将来の うか。実際,いつ起こるかわからない危機に対処する 売上減に起因する逸失利益)を加えて検討するように ことは容易なことではありません。その結果,計画は なっています。 立てたものの人員の配置や予算の手当てまではままな らず,実効性に乏しい計画になってしまっているケー OLCA は未来志向のフィードフォワード型の管理 スもあると想定されます。 ツールです。そこでは機会損失だけを問題とする点が, 従来のフォードバック型の品質コストアプローチとは 4 BCP にかかわる喫緊の検討課題 異なる特徴といえます。この点は次回解説します。 こうした現状を鑑みれば,早急に検討が必要となる [参考文献] のは,計画の実行が確かな成果を上げているのかを定 [1]https://www.mizuho-ir.co.jp/company/release/ 期的に確認し,もしも問題があればこれを是正へと導 く支援ツールの開発です。これにくわえ,実際に BCP 2020/bcp0908.html を練ろうとすると,想定されるリスクとそれが事業に [2]https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/ 及ぼす影響,さらにはそれらに伴う被害状況の把握が 必要になります。いうまでもなく,リスクのタイプに p200200.html よってその対応は異なってきますし,発生確率も同様 です。その結果,推定される損害額を高い精度ではじ Profile 伊藤 嘉博(いとう よしひろ) 早稲田大学商学学術院教授。日本会計研究学会理事,管理 会計学会副会長,公認会計士試験委員などを歴任。著書に, 『品質コストマネジメント・品質管理と原価管理の融合』 (中央経済社,日経品質管理文献賞)など。 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 16

Report 第 50 回 信頼性・保全性・安全性シンポジウム 半世紀を超えた信頼性・保全性さらに安全性が進むべき道  信頼性 ・ 保全性 ・ 安全性シンポジウムは,年に一度, テムデザイン工学科 教授)より,建築構造設計に始ま 信頼性 ・ 保全性 ・ 安全性に関する実践的な技術・ 経 り,性能設計(機能確保,安全性に加えて修復性を考 験・研究成果を共有し,意見交換を行う場です。 慮 ) の新しい潮流,さらに日本建築学会が提唱するレ  本分野におけるビッグイベントとして各方面から ジリエント,最後に災害に負けない持続可能な社会に 注目を集めており,今年は第 50 回記念シンポジウム 向けて講演いただきました。 として,” 半世紀を超えた信頼性 ・ 保全性さらに安全  続いて,伊藤耕三氏(東京大学大学院 新領域創成科 性が進むべき道 ” をテーマに,6月 29 日 ( 火 ) ~ 30 日 学研究科 教授)より,軽いが脆いポリマーに関する大 ( 水 ) の2日間に延べ 400 名の参加者のもと盛大に開 胆な目標設定(10 倍)から,タフなポリマーを開発し 催されました。本シンポジウムでは初となるオンライ た技術的な理論およびそれを達成できた体制・マネジ ン開催の模様を皆様にお伝えいたします。 メントについて紹介いただきました。  講演後の意見交換では熱心な討議が行われ,レジリ   基調講演 エンスの最も大事な点は,建物に対して人が愛着を持 てることであるとの意見が印象深いものでした。また,  本シンポジウム組織委員会鈴木和幸委員長(電気通 ポリマーの研究プロジェクトが成功した理由の一つ 信大学名誉教授・ 特任教授)より,「これからの信頼 として,企業の中に眠っていた技術が活用されたこと 性・保全性・安全性」と題して基調講演が行われまし が紹介されました。いずれの分野においても,信頼性 た。COVID-19 への対策とデジタル・インターネット の必要性に関して,より強く実感できた特別企画セッ 社会の対比から信頼・安全への理念,規範,設計思想 ションでした。 と顧客価値・ 社会価値創出への視点やアプローチに ついて,深いご見識に基づくご講演をいただきました。   特別企画セッション2 想定し難い状況や市場の変化に対応して,データ駆動 型の品質保証と信頼性・保全性・安全性を確保してゆ  「将来社会に向けた自動化の設計の展望」 くためには,別々のデータを繋ぐための仕組みや仕掛  はじめに稲垣敏之氏(筑波大学 学長特別補佐)より, けが必要になるなどの議論が行われました。 車の自動運転の進むべき方向,可能性についてわかり やすく語っていただきました。航空機の自動化とは異   特別企画セッション1 なり,認識,操作の自動化に加えて「判断」の自動化が 可能となっており,人と機械のどちらに判断権限・責  「2050 年に向けた社会インフラの長寿命化~物理的 任を与えるべきかを状況に基づき決めてゆくことの重 な側面より~」 要性が指摘されました。続いて,鯉渕健氏(トヨタ自  はじめに門田靖副委員長(㈱リコー 先端技術研究 動車㈱ クルマ開発センター フェロー Woven Planet 所 HDT 研究センター 設計基盤開発室 シニアエキス Holdings, Inc. CTO, Woven Core, Inc. Chairman) パート)より信頼性先史時代(AGREE レポート発行以 より,認識・操作の自動化,人とクルマとの協調や安 前 ) から,現在までの物理的故障解析,信頼性物理を 全設計に関わる先端技術をご紹介いただき,自動運転 中心とした進歩と残された課題について講演いただき システムの現状と新たなチャレンジ等が紹介されまし ました。 た。最後に,新海正史氏(損害保険ジャパン㈱ リテー  次に,小檜山雅之氏(慶應義塾大学 理工学部 シス ル商品業務部 自動運転タスクフォース リーダー)よ 17 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号

Report 第 50 回信頼性・保全性・安全性シンポジウム り,自動化技術の社会的受容や安心,保険などの備え   研究・事例発表 も含めた将来のモビリティ社会への期待についてお話 しいただきました。  本シンポジウムメインコンテンツの一つである一  講演後の意見交換では,人と機械の双方が,相手の 般発表が行われ,各企業・団体から計 18 件の発表が 意図を読み取るためのコミュニケーションが重要であ ありました。「劣化量の予測」「信頼性試験の物理」「モ り,文字表示,音声提示,対話など多様な方法が可能 ノ づく りの ソリ ュ ーシ ョ ン」「材 料の 信頼 性 と評 価方 であること,さらに事前・同時・事後のどの提示タイ 法 」「 安 全・ 安 心 と ヒ ュ ー マ ン フ ァ ク タ ー ズ 」「 保 全 モ ミングでの発信が適当か等,今後取り組むべき課題が デルとデータ活用」「品質工学を活用した信頼性評価」 浮き彫りになり,多くの分野に当てはまる有益な情報 といった多様なテーマの研究成果や事例発表は,いず 交換の場となりました。 れも興味深く,質疑応答は盛り上がりを見せ,どれも 時間いっぱいまで続きました。ここではご紹介しきれ   特別講演 ない,各セッションのレポート ( 詳報 ) は RMS シンポ ジウムの web ページに開催レポートを掲載しており  「ANA の安全マネジメント ~不安全事象を未然に ますので,ぜひご参照ください (https://www.juse.jp/ 防ぐ仕組みづくりと組織づくり~」 rms/repo/)。  黒木英昭氏(全日本空輸㈱ 取締役 執行役員(オペ レーション部門副統括・整備担当))より,「安全・安 ** 後 記 ** 心」の顧客経験価値を維持・向上させるために,安全  本シンポジウムは,長らく「信頼性・保全性シンポ リスクの想定と安全マネジメントの仕組みづくり,さ ジウム」の名称で開催してまいりました。しかし,時 らにはそれを実現する組織づくりについて,具体的な 代が電気通信,情報通信,IoT,そして CPS へと向か 事例に基づいて紹介いただきました。示された①技術 う今日,信頼とともに安全を顧客と社会に与え続ける 側面からのアプローチ,②人的側面からのアプローチ, ためには,信頼性と保全性に加え,安全性を造り込む ③組織的側面からのアプローチ,そして④トータルシ ことがこれまで以上に必要となってきていること,ま ステムからのアプローチという安全性向上への取り組 た,安全性は顧客価値として必須となっていることか みの推移は,「安全・安心」への顧客価値・社会価値創 ら,第 50 回を機に『信頼性・保全性・安全性シンポジ 生の視点から,どの業種においても重要と考えられま ウム(略称:RMS シンポジウム)』に名称変更しまし す。大変示唆に富む有意義な講演であり,安全・安心 た。いずれの講演 ・ 発表も,信頼性・保全性 ・ 安全性へ に取り組む全ての方々にお伝えしたい内容でした。 の関心が高く,その必要性,重要性が認識されている ことを示す活発な質疑が行われ,昨今のモノからコト   表彰式・受賞者インタビュー への変革により,信頼性・安全性の概念が変わる可能 性があることを強く感じました。  第 49 回(2019 年度)シンポジウム優秀報文(事例) 賞,奨励報文(発表)賞,学術 / 技術貢献賞,フォトコ  ご参加いただいた皆様,ご講演・ご発表いただいた ンテスト表彰式を行いました。続けて「長年研究を続 皆様,改めてお礼申し上げます。RMS シンポジウムが けてきた信頼性技術者に聞く」と題し,次世代の信頼 有意義な場となっていましたら幸いです。アンケート 性技術者のために,信頼性技術課題の着想方法や,そ でいただいたご意見・ご要望を踏まえ,来年に向けよ れを組織の中で具現化するための研究活動につなげ, りご満足いただけるよう,取り組んでまいります。 更に継続するために,持ち続けた発想や技術者として のあり方について受賞者の皆様に門田靖副委員長がイ まとめ:横川 慎二(電気通信大学) ンタビューでお話をお伺いました。故障箇所を早期発 RMS シンポジウム組織委員会委員 見することは大変だけれどそれを克服できた喜びは倍 増で,解析は楽しく面白いものである。入社して間も 次回は2 0 2 2 年7月開催予定! なく取り組んだ。ぜひ若い皆さんにどんどんチャレン ジしてほしい。会社の中で困っている方,課題の興味  2021 年 11 月に発表報文募集開始します。信頼性・保全性・ をもっている方を見つけて一緒に取り組むようにして 安全性の技術を高めるために邁進、活躍されている皆様の工夫 きた等々,活動への取り組み,アドバイスをいただき や成果を是非ご投稿ください。 ました。  問い合わせ先:SQC・RE チーム RMS 担当  TEL:03-5378-9850 E-mail:[email protected]  URL:https://www.juse.jp/rms/ クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号 18

Contents 19 クオリティ・クラブ No.28 2021年 9月・10月号



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http://www.juse.or.jp/ No.28 2021 9 10 6 2021 9 10 163-0704 2-7-1 4 TEL 03-5378-1223 FAX 03-5378-1227 E-mail [email protected]


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